子供たちをめくるめくお話しの世界に。日本発祥の芸能文学である紙芝居。
私の通っていた小学校では、年に何度か視聴覚室を使って自由参加の「おはなし会」が開かれていました。
その中でも特に私が印象に残っているのが「紙芝居」。
自分がお話を黙読するのとは違い、他人が演じながら語られる紙芝居は、普段よりもお話にワクワクしていたような気がします。
本日は、大人になると触れる機会が減りがちな紙芝居の歴史や魅力をご紹介します。
紙芝居の歴史、はじまりはじまり~
分かりやすい1枚絵と語りや台詞で物語が進んでいく『紙芝居(かみしばい)』。
誰もが子供の頃に一度は見たことがあるのはないでしょうか。
実は、紙芝居は日本で生まれた芸能文学なんです。
更に私たちが紙芝居と聞いて思い浮かぶ姿になるまでは、長い道のりがありました。
まず紙芝居の様に「相手に絵を見せながらお話を語る」というスタイルは、日本で古くから見られます。
それを証拠付けるのが、平安時代初期に描かれた源氏物語が題材の『源氏物語絵巻(げんじものがたりえまき)』で、その中にある「東屋(あずまや)」の1ページです。
「浮舟(うきふね)」と呼ばれる女性が冊子に描かれた絵を見ており、傍らの女房が「詞書(ことばがき)」を読み上げている姿が描かれています。
源氏物語にも「絵など取り出でさせて、右近に詞読ませて見たまふに(絵物語を取り出させて、右近に詞書を読ませながら見るに)~」という一節があり、絵と詞が別々になっている冊子を見ている姿が伺えます。
国立国会図書館ウェブサイト,源氏物語絵巻,藤原隆能 著, 徳川美術館 編 より抜粋
また平安時代の寺院では、仏教壁画や掛け軸を解説・物語る『絵解(えとき)』も行われており、これも紙芝居と似たスタイルです。
さて、紙芝居が誕生するきっかけは、江戸時代から明治時代に見られます。
昔から芝居や歌舞伎など「複数人に同時に見せる大衆娯楽」は存在していましたが、この頃から新しいものが登場してきました。
『のぞきからくり』は、箱に開いた穴から中の絵を見つつ、両側に立つ演者の語りを聞くものです。
中にはレンズが仕込まれており、絵が拡大されて現実の風景として錯覚するような立体感が出ていました。
また、ガラス板に描いた絵にロウソクの光を当てて和紙の幕に映し出して語る『写し絵(うつしえ)』というものもありました。
これらも「相手に絵を見せながらお話を語っている」ので、紙芝居の原型といわれています。
しかし1896年(明治29年)に海外から無声映画が輸入されたことにより、どちらも人気が廃れていきます。
人気が廃れたため、写し絵の絵を描いていた絵師たちは次々と失業していきました。
そんな中、写し絵に変わるものとして誕生したのが『立絵紙芝居(たちえかみしばい)』です。
紙に人物や物などの絵を描いて切り抜き、余白の部分を黒に塗りつぶします。
それを竹串を挟み込むように貼り付け、黒い背景の舞台の上で動かしてお話を聞かせるというものです。
現在で言う『ペープサート』のようなものですね。
立絵紙芝居は当初、お祭りや縁日などの行事に仮の小屋を作り、見物料を徴収してその中の舞台を見せる『小屋掛け興行(こやがけこうぎょう)』が主流でした。
暫くすると、小さな舞台を担いで街中で実演する『街頭紙芝居(がいとうかみしばい)』と呼ばれる営業方法が現れます。
ちなみにまだこの頃は「西遊記」や歌舞伎に因んだ題材など、どちらかといえば大人向けの作品が主流だったようです。
1912年(大正元年)に入り、海外からの文化が広く伝わると同時に紙芝居は一時衰退しますが、1923年(大正12年)に起こった「関東大震災」の後に、子供向けの娯楽として再度流行していきます。
しかし流行と同時に「お祭りや縁日以外の日の無許可の小屋掛け興行」が警察の取り締まり対象になってしまいました。
業者たちは警察に目を付けられないようにするため、見物料を徴収する代わりに飴を売って代金をもらう形式へと変化させていきました。
すると今度は教育上や交通、衛生上の問題から立絵紙芝居自体が禁止となってしまいました。
そこで取り締まりから逃れるために「飴を売って、場面を描いた絵を見せながらその内容を解説する」という『平絵紙芝居(ひらえかみしばい)』が考案されました。
そして1930年(昭和 5年)に『魔法の御殿(まほうのごてん)』という、日本初の紙芝居が誕生します。
この頃は世界恐慌の影響で日本も不況の真っただ中で、手軽に営業を始められる紙芝居屋は瞬く間に普及しました。
以降は、自転車に小さな舞台を積んで街中を走り、拍子木(ひょうしぎ)を打ち鳴らして子どもを集めてお菓子を売って紙芝居を行うという、親しんだ姿になっていったのです。
このような背景もあってか、紙芝居のスタイルは世界に類を見ません。
今では商売ではなく児童向けの教育文学として主流となり、貴重な文化として海外にも広く知られてきています。
紙芝居の魅力いろいろ
今まで多くの子供たちを惹きつけた紙芝居。
大人になってもついつい見入ってしまう人も多いでしょう。
紙芝居には、一体どのような魅力があるのでしょうか。
紙芝居の大きな特徴は「複数枚の1枚絵で構成されていること」と「演じ手の存在が必須であること」です。
紙芝居では「手前の絵を抜き出して後ろに差し込む」という動作が必要になります。
この動作で次の場面が現れることで「物語の世界が現実に出てきて広がっていく」ような感覚を得られるのです。
また、サッと抜く・ゆっくりと抜く・途中で止めるなど、絵の抜き出し方にメリハリをつけることができるので、より作品に臨場感を与えてくれます。
紙芝居に使われている舞台もただ紙芝居がバラバラになることを防ぐだけでなく、舞台で囲われている部分に観客が集中しやすく、話に入り込みやすくなる効果があります。
そして紙芝居は状況を解説したり、登場人物のセリフを喋ったりと「演じ手がお話を展開」します。
絵本とは違い文字が書かれていないため、観客は絵に集中してお話を楽しむことができます。
作品によっては観客の応答が必要だったり、一緒に身体を動かすものもあったりと、演じ手と観客がコミュニケーションを取ることで完成する作品もあり、紙芝居を通して共感を得ることができるのも魅力でしょう。
紙芝居をするのに特別な技術は要りません。
アニメーションのように解説や登場人物に合わせて声色を変えるよりも、自分自身の声で変わらず話すほうが、観客が個々に感じる作品の世界観を壊さないからです。
また絵の良し悪しもあまり関係なく、誰でも気軽に楽しめるのも紙芝居の良いところ。
最近ではコロナウイルス感染症の影響もあり、紙ではなくデジタルの画像と音声を収録した「デジタル紙芝居」も登場しています。
皆さんも童心に返って、紙芝居を楽しんでみるのはいかがでしょうか。
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