読者を驚かせたり楽しませたりするための技法たち。推理小説における暗黙のルールとは。

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古来から存在する文学作品の一つである小説は、風景や音、登場人物の特徴や感情までありとあらゆる情報を文字という形で表現されています。
読者はその文字を読み解き、各々の想像力を膨らませ、小説の世界に浸って楽しみます。
小説には多数のジャンルがありますが、事件の発生から解決までを読み解く推理小説は幅広い世代に人気のジャンルです。
そんな推理小説には、読者を楽しませるために暗黙のルールが存在するのはご存じでしょうか。
本日は推理小説のトリックにまつわるルールをご紹介します。

 

謎にドキドキする推理小説

『推理小説(すいりしょうせつ)』といえば、作中で事件や犯罪が発生し登場人物たちがそれらの解決に至るまでの道筋を楽しむものです。

諸説ありますが、世界で初めて描かれた推理小説は1841年にエドガー・アラン・ポーが執筆した「モルグ街の殺人」といわれています。
事件には今や定番ともいわれる密室殺人が扱われており、探偵が手がかりを元に物語の終盤で推理を披露し、意外な犯人が判明する…といった推理小説の原型といえるような作りです。

日本では1887年(明治20年)頃に海外の推理小説が初めて翻訳され、翌年には日本初の創作推理小説といわれている「殺人犯」須藤南翠(すどうなんすい)が発表しています。

推理小説もテーマによってさらに細かくジャンル分けされます。
最も代表的なものといえば、作中にフェアな状態で明示されている証拠や状況などから探偵が謎を解明する「本格ミステリ」でしょう。
主人公が警察やスパイ、検事や弁護士など探偵以外の職業だったり、学生などの青年期の人物が活躍したりするものもあります。
また、ストーリーや背景よりも暗号やパズルなどの謎に重点が置かれているものや、ファンタジーやオカルトなどフィクション要素を取り入れた理論的ではない作品も存在します。

このように推理小説のサブジャンルは多岐に渡りますが、根本である推理で解明を重視されるものは3つに分類できます。
作者はこの分類を一つだけ、あるいは複数・全てを取り入れて推理小説を生み出します。

■フーダニット (Whodunit = Who done it)
「誰がやったのか」つまり、事件の犯人は誰なのかの解明を重視する作品。

■ハウダニット (Howdunit = How done it)
「どのようにやったのか」つまり、犯人の犯行方法やトリックの解明を重視する作品。

■ホワイダニット (Whydunit = Why done it)
「なぜやったのか」つまり、犯人がどういう人間なのか・犯行動機の解明を重視する作品。

 

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推理小説の要「トリック」

推理小説における『トリック』とは「犯人が犯罪行為を隠ぺいするために行われた仕掛けや企み」のことを指します。
基本的には「作中において犯人が探偵役に仕掛けるもの」を指しますが「著者や製作者が読者に仕掛けるもの」もトリックに含まれます。
代表的なものとしては物の仕組みを利用して作る「物理トリック」、思い込みや誤認などを利用する「心理トリック」、犯行が不可能であることを偽装する「アリバイトリック」などがあります。

トリックは推理小説においての肝であり、出来栄えによって作品の良さを左右するといっても過言ではありません。
ありとあらゆるものがトリックになりえるため、極端な話、作者が創作した空想上のあり得ないことだけでもトリックを作ることができます。
しかし作者にしか想像できないものは当然、他者には思い当たらないものなので推理を楽しむことが難しくなります。
そのような作品は読者から反発を受けることになってしまいます。

そこで、推理小説のトリックの基本として「読者を楽しませるためのルール」を成文化したものが存在します。
有名なものは以下の2つです。

■ノックスの十戒
1928年にイギリスのロナルド・ノックスが説いたものです。

  1. 犯人は物語の当初に登場していなければならない
  2. 探偵は推理のときに超能力などの超自然能力を使ってはならない
  3. 犯行現場には秘密の抜け穴や通路が二つ以上あってはならない
  4. 未発見の毒薬や難しい科学的な説明が必要な装置を犯行に使ってはならない
  5. 中国人(当時は「常人を超える身体能力を持つ人」のことを指す)を登場させてはならない
  6. 探偵は偶然や第六感で事件を解決してはならない
  7. 探偵が変装して登場人物を騙す場合を除いて、探偵自身が犯人であってはならない
  8. 探偵は読者に提示していない手がかりで事件を解決してはならない
  9. 探偵の相棒役は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
  10. 双子や一人二役を行っている設定は、あらかじめ読者に知らされなければならない

 

■ヴァン・ダインの二十則
1928年にアメリカのS・S・ヴァン・ダインが説いたものです。

  1. 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
  2. 作者は、作中の人物が仕掛けるトリック以外に読者を騙すような記述をしてはいけない。
  3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。
  4. 探偵自身、あるいは捜査員の一人が犯人になってはならない。
  5. 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。
    偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
  6. 必ず探偵役が登場し、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
  7. 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
  8. 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
  9. 探偵役は一人が望ましい。
    一つの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは、推理の脈絡を分断するばかりでなく読者に対して公平を欠く。
  10. 犯人は物語の中で重要な立場の人物でなくてはならない。
  11. 脇役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。
  12. 複数の殺人事件があっても真犯人は一人でなければならない。
    但し脇役の共犯者がいてもよい。
  13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、推理小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。
    彼らは非合法な組織の保護を受けられるので不公平である。
  14. 殺人の方法とそれを探偵する手段は合理的でしかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。
    例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
  15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
  16. 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
  17. プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
  18. 事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。
  19. 犯罪の動機は個人的なものが良い。
    国際的な陰謀や政治的な動機だとスパイ小説になってしまう。
  20. プライドのある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
    ・犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
    ・インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
    ・指紋の偽造トリック
    ・替え玉によるアリバイ工作
    ・番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
    ・双子の替え玉トリック
    ・皮下注射や即死する毒薬の使用
    ・警官が踏み込んだ後での密室殺人
    ・言葉の連想テストで犯人を指摘すること
    ・土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

 

 

とはいえ指針が発表された以降も、これらのルールを意図的に破った作品も数多く存在しており、一概に守るのが正しいとはいえません。
ルールの前提や偏見を利用して作られた有名なトリックは、読者に対して仕掛ける『叙述トリック(じょじゅつトリック)』ではないでしょうか。
「小説で描かれる描写は正しく、そこから得られる情報も正しい」という前提条件を覆されるこのトリックには色んなパターンがあり、登場人物の名前の呼び方で同一人物や複数人を誤認させたり、特徴や話し方などで性別や年齢などを誤認させたりする「登場人物の誤認」
時系列を入れ替えて記載したり、別の時間軸の話を同時進行に見せかけたりする「時間の誤認」
犯行現場や登場人物のいる場所を曖昧に記述し、別の場所であることを隠すなどの「場所の誤認」
途中から妄想や夢、作中内で創られた劇や作品に置き換えたりする「虚構の誤認」などがあります。
ルールを破っていながらも、驚きの展開を見せる叙述トリックは、現代でも愛されるトリックの一つです。

 

基本的な指針に則った推理小説は、論理的な思考で解答へと導かれることがほとんどなので、まさに正統派といえるでしょう。
しかし、絶対にあり得ないような突飛なトリックでも、話の展開によってはその発想はなかったと笑って許されるものもあるのも事実。
どんな作品であれ本当に大切なのは作者が書いて楽しいこと、そして読者が読んで楽しめることなのかもしれませんね。

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