外から帰ってきたときに欠かせない習慣づけを。この先もずっとやるべき『手洗い』のこと。
新型コロナウイルス感染症の影響で外出が減った方も多いと思いますが、完全に外出していない方はかなり少ないのではないでしょうか。
娯楽だけでなく食料や日用品を買うため、あるいは会社や学校に通うために外出を行っているはず。
そして外出から帰宅した時に欠かせないのが「手洗い」。
私も物心ついた頃から両親に「外から帰ってきたら手を洗いなさい」と言われていました。
しかし、たまに明確な意見が無いにもかかわらず「自分は手洗いをしない」と断言する人がいます。
感染症を防ぐために重要とされる「手洗い」ですが、その人はなぜ重要といわれるのかをあまり分かっていないのかもしれません。
今回は「手洗い」がなぜ大切なのかのメカニズムをご紹介します。
手洗いと細菌・ウイルスのハナシ
手指・手首の汚れや微生物を除去するために欠かせない『手洗い』。
そもそも感染症予防に最適だと言われているのはなぜなのでしょうか。
この世界には目に見えない小さな生き物『微生物』が数えきれないくらい存在します。
体内や皮膚などの生物の身体、物体の中や表面、果ては空気中にも存在します。
私たちが手洗いで除去したい微生物というのは『細菌』と『ウイルス』にあたります。
■細菌
細菌は「一つの細胞でできている生物」のことです。
外部からの栄養を受けて自分自身の力で増殖することが出来ます。
全く害が無いものから人体に重大な悪影響を及ぼすものまで、性質は様々です。
悪影響を及ぼす細菌は体内で増殖し人の細胞に攻撃を仕掛けたり、毒素を出して細胞を傷つけることにより症状が現れます。
■ウイルス
ウイルスは「細胞に寄生し、破壊しながら増殖する物質」のことです。
自身の身体を形成しているDNA情報などは持っていますが、単体では増殖することができないため厳密には「生物」とはいえません。
ウイルスは他の細胞に寄生し、細胞を介して増殖します。
寄生された細胞は最終的に破壊され、増殖したウイルスは別の細胞へと寄生を繰り返します。
人の細胞を破壊し続け、一定数以上の細胞が破壊された時に症状が現れます。
「細菌」と「ウイルス」に共通するのは「体内に入り込み、一定数以上存在すると悪影響を及ぼすこと」です。
人間には体内に侵入した細菌やウイルスを排除する機能が備わっていますが、それも完璧ではありません。
そのため、まずは「体内に取り込まないようにすること」が重要です。
しかし冒頭の話を踏まえて「どこにでも存在するのだから、取り込まないようにするのはやるだけ無駄」という人がいるかもしれません。
では、例えば毎日体内に「1,000個」取り込んでしまう細菌で「10,000個」取り込むと症状が発生するとします。
取り込まないよう努力して取り込む量を「100個」まで抑えるのと、何もしないで毎日「1,000個」の細菌を取り込むのとでは、どちらが先に症状がでるかは目に見えていますよね。
数が少なければ、症状がでる前に身体の免疫機能で除去することも可能です。
さらに細菌やウイルスが増殖するスピードは私たちが考えているよりもずっと早く、数分で何倍にも増えます。
それぞれが倍々に増えていくので元々の数が少なければリスクが下がるのは当然のことです。
今度は「手洗い」が有効とされる理由を細菌やウイルスが体内に取り込まれるまでの経路から考えてみましょう。
何もついていない手に細菌やウイルスが付くのは「物体に手を触れる」「空気中に浮かんでいるものが付着する」「体内から外に出るとき(くしゃみなど)に手で押さえることにより付着」などが挙げられます。
その細菌やウイルスが付着した手でどこかを触れば手から物体に移動しますし、風などの要因があれば手から飛ぶこともあります。
そうやって移動を繰り返した細菌やウイルスは口や鼻、粘膜の薄い目など様々な経路から最終的に体内に侵入します。
手は立派な「移動経路の中間地点」なのです。
その中間地点で除去をしておけば、結果的に体内に入り込むリスクを下げられるということです。
手洗いの仕方を見直す
手洗いで一番重要なのは「手に付着している細菌やウイルスを洗いながすこと」です。
下の表は、手洗いの時間・回数と残存ウイルス数を比較したものです。
手洗いの方法 | 残存ウイルス数 (残存率) ※手洗いなしと比較 |
手洗いなし | 約100万個 |
流水で15秒手洗い | 約1万個 (約1%) |
石鹸やハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ | 約数百個 (約0.01%) |
石鹸やハンドソープで60秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ | 約数十個 (約0.001%) |
石鹸やハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎを2回繰り返す | 約数個 (約0.0001%) |
※森功次他:感染症学雑誌、80:496~500, 2006 より引用して作成
これを見てみると「手洗いなし」に比べるとただ水洗いをするだけでも手の残存ウイルスは少なくなっているのが分かります。
しかし石鹸やハンドソープで手洗いをするとその残存率はさらに少なくなります。
これは石鹸やハンドソープの泡が細菌やウイルスを手から落としやすくしてくれるためです。
また一度の長い手洗いよりも複数回の手洗いをした方が残存率が少ないという結果に。
石鹸やハンドソープは細菌やウイルスを殺す能力は無いため、手から洗い流す回数が多いほうが少なくなったと考えられます。
ちなみに手を洗わずアルコール消毒だけを行った結果は、ただ水洗いするだけと同程度の結果になることが分かっています。
もちろん、洗い流すことが大切とはいえ、手もみ洗いを疎かにするのは間違いです。
人間の手には小さなシワがたくさんあり、その隙間にも細菌やウイルスが入り込みます。
手もみ動作が足りないと隙間まで届かないため、結果的に手洗いの効果が減少します。
『丁寧な手洗いを出来れば2回繰り返す』のが一番効果的だといえるでしょう。
ただ、手洗いの大切さは分かりましたが、手の洗いすぎで手が荒れてしまうことがあるのが困りごとですよね。
少しでも手荒れを軽減させるために、手洗い後にはハンドクリームを使用するようにしましょう。
また、お湯で手を洗うと手を保護してくれる皮脂が水よりも多く流れていってしまうため手荒れがしやすくなります。
しかし水だと冬場の寒い時期は、冷たさで手洗いが疎かになりやすくなるため手洗いの効果が少なくなります。
そのため、手洗いをする温度は32℃~35℃ぐらいのぬるま湯がベストといわれています。
手洗いの大切さは分かっていただけたでしょうか。
汚れがついていなければ自分の手は綺麗な気がしますが、実際は目に見えていないだけ。
細菌やウイルスは、いつでも身体に侵入する機会をうかがっています。
まずは自身の身体の至るところに、細菌やウイルスが存在することを自覚することが大切です。
そして、仮に新型コロナウイルス感染症が収まったとしても、身体に有害な細菌やウイルスがこの世から消えるわけではありません。
手は体内までの侵入経路の一つのため、手洗いは自身を守るためだけではなく、他の人を守るためのものでもあります。
この先ずっと自分、あるいは家族や大切な人を守るために「手洗い」をしてもらえれば幸いです。
出典:
森功次他:感染症学雑誌、80:496~500, 2006(http://journal.kansensho.or.jp/Disp?pdf=0800050496.pdf)
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