雄々しい伝説上の生物。竜にまつわる神話と伝承。
毎年変わっていく十二支、今年は辰年ですね。
辰は伝説上の生物である「竜」を指す名前です。
実在するのか定かではない生物ですが、日本の神話には竜が登場するお話が沢山あります。
今回は、日本で語り継がれる「竜」が登場する神話や伝承をご紹介します。
日本神話の竜といえばコレ!
竜の登場する日本神話で最も有名なものといえば「須佐之男命(すさのおのみこと)」にまつわる話に登場する『八岐大蛇(やまたのおろち)』です。
「大蛇(おろち)」とあるので、竜ではなく「ただの巨大な蛇」と思っている人も多いのではないでしょうか。
古代の日本において蛇は山神や水神、あるいはその化身として信仰されていました。
また竜は中国から伝わってきた生物で、造形の一部にも蛇が吸収されています。
そのうち、互いに姿形が似ているため、蛇と竜は習合して同一の物として扱われるようになりました。
そのため八岐大蛇は単純な大蛇ではなく「蛇のような姿をした巨大な竜」という存在に近いのです。
その昔、天照大神の弟である須佐之男命は、神々が住む高天原で暴れて混乱を招いたため、追放されてしまいました。
彼は出雲の国の斐伊川上流の鳥髪(現在の島根県船通山の麓)にやってきました。
須佐之男命が川の上流へ向かうと、「足名椎命(あしなづち)」と「手名椎命(てなづち)」という老夫婦とその娘「櫛名田比売(くしなだひめ)」が泣いていました。
須佐之男命がなぜ泣いているのかを尋ねました。
老夫婦には八人の娘がいましたが、年に一度高志(現在の福井県から山形県あたり)から八岐大蛇という怪物がやってきて、娘を一人ずつ食べて行くのです。
そして今年もその時期が迫っており、最後の娘である櫛名田比売も食べられてしまうと泣いていたのでした。
須佐之男命は八岐大蛇の姿を尋ねます。
八岐大蛇の目はホオズキのように真っ赤であり、身体一つに八つの頭と八つの尾を持っていました。
身体にはコケとヒノキやスギの木が生え、身体の長さは八つの丘と八つの谷を跨る大きさで、腹は常に血で爛れているといいます。
話を聞いた須佐之男命は、足名椎命に「櫛名田比売を妻にくれないか」と切り出します。
「私は天照大神の弟であり、今しがたこの地に来たところである。もし娘をくれるのであれば、八岐大蛇を私が退治しよう。」と言いました。
老夫婦は娘の命が助かるならと、その提案を受け入れました。
須佐之男命は櫛名田比売を湯津爪櫛という力を宿した櫛に変え、自らの結った髪に挿しました。
そして足名椎命と手名椎命に「何度も醸成させた八塩折之酒を造れ。そして八つの入り口がある垣を造り、入り口ごとに棚と上に大きな器を置き、器ごとに酒を入れて待て。」と指示しました。
二人は言われたとおりに準備をして、八岐大蛇を待ちました。
すると八岐大蛇が現れ、八つの門にそれぞれの頭を入れると夢中になって酒を飲み始めました。
酒ですっかり酔っ払った八岐大蛇は、その場で深く眠りこけてしまいました。
これを待っていた須佐之男命は、持っていた十拳剣で八岐大蛇を切り刻んで倒したのでした。
この時、八岐大蛇の尾の部分を切った時に中から出てきた剣が、三種の神器の一つである「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」です。
とてつもない大きさの竜ですが、お酒の力であっさり倒せてしまうのが少し愛らしく感じますね。
弁才天と所縁のある五頭竜
八岐大蛇のように神様と所縁のある竜も全国には存在します。
神奈川県の鎌倉に伝わる伝承『五頭竜伝説(ごずりゅうでんせつ)』もその一つです
この伝承は、神奈川県藤沢市の「江の島(えのしま)」の誕生にも深い関係があるものです。
その昔、鎌倉の深沢に巨大な湖があり、そこに身体一つに五つの頭を持つ五頭竜が棲んでいました。
五頭竜は山崩れや洪水などの天変地異を起こして、津村(現在の腰越および隣接の現鎌倉市津一帯)の国土を荒らしていました。
村々は少しでも竜を鎮めるために生贄を差し出しましたが効果が無く、長い間人々は苦しめられてきました。
そんなある年、西暦552年(欽明天皇13年)。
突如として海上に暗雲が立ち込んで雷鳴が轟き、大地震が起こって天地が激しく揺れ動きました。
地震が収まった頃、ふと人々が海を見ると今まで何も無かった海上に島が現れているではありませんか。
これが江の島誕生の瞬間です。
そして、その江の島に天から十五童子を引き連れた美しい天女が舞い降りてきたのです。
天女の名は『弁才天(べんざいてん)』といいます。
五頭竜はその弁才天のあまりの美しさに一目惚れをしました。
早速五頭竜は弁才天に求婚しますが「人々に対して残虐な行いをする者の妻にはならない。」と断られてしまいます。
それでも諦めきれない五頭竜は自身の行いを悔い改め、これからは人々に善行をなすこと弁才天と誓って夫婦になります。
それからというもの、五頭竜は村に日照りが続くときには雨を降らし、実りの秋にやってくる台風を跳ね返し、陸地に津波が襲ってきたときには身体を張って村を守り、人々に感謝されるようになりました。
時が流れ、五頭竜は老いて体は次第に弱ってきました。
自分の寿命を悟った五頭竜は弁才天に話します。
「私の命は間もなく尽きるでしょう。しかし、私は死んでも山となり、いつまでもこの地を守り続けましょう。」
こうして五頭竜は江の島の対岸に渡り、大きな山となったのでした。
悪行を悔い改め、改心すれば認められるというのは、仏教の教訓でもありますね。
五頭竜は現在「龍口明神社(りゅうこうみょうじんしゃ)」に御祭神として祀られています。
人々を守る竜
竜は昔から自然の姿の象徴とされ、天候などを操る力があると考えられてきました。
千葉県印旛沼付近で伝えられている『雨を降らせた竜(あめをふらせたりゅう)』は、その力を使って人々を救った伝承です。
その昔、印旛沼の畔に気の良い人々が住む村がありました。
印旛沼には竜が棲んでおり、村人たちが大好きだったので、しばしば人間の姿になっては村に遊びに行きました。
村人たちも竜のことが大好きだったので暖かく迎え入れ、毎日楽しく過ごしていました。
ある年のことです。
印旛沼の辺りで大日照りが続き、酷い干ばつが起こりました。
村人たちは必死に雨ごいを行いましたが一向に雨は降りません。
水田は干からびてしまい、村人たちはいよいよ餓死を覚悟しました。
そんな時のこと、いつもの竜が村に来て言いました。
「この大日照りは、大竜王が雨を降らせることを止めているために起こっていることです。私のような竜が雨を降らせば、きっと体を裂かれて地上に落とされるでしょう。しかし、私は今まで皆に親切にしてもらった恩返しがしたい。必ず雨を降らせてみせましょう。」
そう告げると竜は姿を消しました。
すると間もなく空は雲に覆われ、大粒の雨が降りそそぎました。
喜んだ村人たちですが、竜の身を案じて空を見上げると、ちょうど竜が天に昇って雲の中に消えていくのを見ました。
次の瞬間、天を裂くような雷鳴が鳴り渡り、稲妻の光の中で竜の姿が三つに裂かれるのを見たのです。
村人たちは竜を想って嘆き悲しみました。
翌日、村人たちは手分けして竜の体を探しました。
そして竜の頭は安食で、腹は本埜で、尾は大寺で見つかりました。
村人たちはそれぞれの場所にお寺を立てて竜の体を納め、人々は竜に祈りを捧げるようになったのでした。
悲しくも優しい竜のお話ですね。
伝承の中で竜の体が見つかった場所には、それぞれ「龍角寺(りゅうかくじ)」「龍腹寺(りゅうふくじ)」「龍尾寺(りゅうびじ)」という3つのお寺が建っています。
伝説上の生物でありながら、日本全国各地に伝えられている竜の伝説。
恐ろしいと思う反面、雄大で神々しくも感じる竜は、人々にとっては神様に等しい存在だったのかもしれませんね。
また来年あたりに次の干支のお話が出来ればと思います。
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