見本にすれば美しいひらがなが書ける?昔に作られた3つの誦文。
皆さんは綺麗な字を書くことができますか。
子どもの頃、習字を通して漢字やひらがなを整えて書く練習をしていたと思いますが、なかなか美しい文字を書くのは難しいものです。
何事も練習が必要ですが、それは今も昔も変わらないようです。
昔の人はどうやって文字を書く練習をしていたのでしょうか。
今回は、その練習に使われていたとされる誦文をご紹介します。
昔の人の文字を書く練習
現代の日本では、教育のおかげでほぼ100%の人が文字を書くことができます。
しかし昔の日本では全ての人が読み書きをできるわけではなく、貴族などの位の高い教養を受けることができる人たちだけが読み書きをしていました。
彼らの中で美しい文字を書くことは嗜みであり、幼少期の内から練習をしていたといわれています。
このような仮名や漢字を書く練習をすることを『手習い(てならい)』といわれていました。

日本語は仮名と漢字から構成されており「漢字」は中国から伝わってきた文字で「仮名」は漢字を元に作られ平安時代に確立された文字です。
漢字は、中国から持ってきた複製本や国内の有名な能書家の書を真似て手習いを行っていました。

一方、日本固有の文字である仮名は、ただ書ければ良いというわけではありませんでした。
かつては仮名には複数の形があり、今は使われていない仮名を『変体仮名(へんたいがな)』といいます。
文字を書くにあたっては漢字と仮名と変体仮名を交え、更に切れ目なく続けて書く『連綿(れんめん)』を用いて美しく書くことこそが大切でした。

当初は仮名を練習するのに歌人が記した和歌を手本にしていました。
和歌は31文字という制限があり、子供が練習するには丁度良い長さだったからです。
特に日本最初の勅撰和歌集である『古今和歌集(こきんわかしゅう)』の『仮名序(かなじょ)』では、次の2首の和歌が手習いに適していると記されています。
なにはづに さくやこのはな ふゆごもり いまははるべと さくやこのはな
難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花ー王仁(わに)
あさかやま かげさへみゆる やまのゐの あさきこころを わがおもはなくに
安積香山 影さへ見ゆる 山の井の 浅き心を 我が思はなくにー作者不詳
どちらも古く由緒を持っていることと「さくやこのはな」や「やま」など同じ句を繰り返し書くことで覚えやすいという利点がありました。
仮名文字を重複させない誦文
やがて、手習いに使われる教材に、ある誦文が用いられるようになります。
『誦文(ずもん)』とは、いわゆる『呪文(じゅもん)』のことで、お経やまじないの言葉を唱えることです。
誦文自体は唱える言葉のことですが、言葉を読むときのアクセント練習や書くときの手本に用いられることもありました。
その一つが10世紀末から11世紀半ばの間に作られたといわれる『いろは歌(いろはうた)』と呼ばれる誦文です。
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見し 酔ひもせずー作者不詳
いろは歌は47文字で構成されていますが、驚くべきことは一文字も重複していないということです。
また、七・五・七・五・七・五・七・五の構成になっており、これは平安時代に流行した『今様(いまよう)』と呼ばれるスタイルです。
それでいて文章全体で意味を持っているように言葉が配置されているのも完成度が高い文です。
文脈があって分かりやすいことから民間にも広く伝わり、その後も長い間手習いに使用され続けてきました。
現代でも学校の授業で習った方も多いかもしれませんね。
いろは歌より前の誦文
実は平安時代の初期には、既にいろは歌と同じように仮名文字を重複させない誦文が登場していました。
一つは48文字で構成された『あめつちの詞(あめつちのことば)』という誦文です。
平安時代の貴族『源順(みなもとのしたごう)』が作り上げた私家集『源順集(みなもとのしたごうしゅう)』に記載されていたものです。
あめ つち ほし そら やま かは みね たに くも きり むろ こけ ひと いぬ うへ すゑ ゆわ さる おふせよ えのえを なれゐて
天 地 星 空 山 川 峰 谷 雲 霧 室 苔 人 犬 上 末 硫黄 猿 生ふせよ 榎の枝を 馴れ居てー作者不詳
ちなみに「え」が2つありますが、これはあ行の「え」とや行の「え」で異なる発音として区別されているものです。
源順集では、さらにあめつちの詞を用いた『あめつちの歌(あめつちのうた)』が収録されています。
これは春・夏・秋・冬・恋・思の6つのテーマに分け、あめつちの詞を順に一文字ずつ歌の最初と最後にあてて、それぞれ8首の合計48首で構成されます。
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もう一つは47文字で構成され、五七調で作られた『大為爾の歌(たゐにのうた)』という誦文。
『源為憲(みなもとのためのり)』が書いた『口遊(くちずさみ)』という児童向け学習教養書に記載されています。
大為爾伊天 奈従武和礼遠曽 支美女須土 安佐利比由久 也末之呂乃 宇知恵倍留古良 毛波保世与 衣不弥加計奴
たゐにいて なつむわれをそ きみめすと あさり(お)ひゆく やましろの うちゑへるこら もはほせよ えふねかけぬ
田居に出で 菜摘む我をぞ 君召すと 求食り(追)ひ行く 山城の 打酔へる子等 藻葉干せよ え舟繋けぬー作者不詳
大為爾の歌の原文は「お」の部分が欠落しているそうです。
これは大為爾の歌が漢字音のアクセントを習得するために作られたもので、「お」と「を」の音韻に明確な区別があった時代から混同される時代への変化に伴うからといわれています。
また、あめつちの詞と違ってや行の「え」がありませんが、最後の句の文法から本当は「えふねかけぬえ」だったのではないかと推測されています。
いろは歌は有名ですが、あめつちの詞も大為爾の歌も仮名が重複しない文章として面白いですね。
いずれもテンポがあって読みやすく、仮名文字を書く練習として実用性がありそうです。
一度試してみてはいかがでしょうか。
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