心の奥まで響く鐘の音。除夜の鐘が祓う煩悩。
そろそろ2023年も終わりです。
毎年年越しのために神社やお寺に参拝する人も多いでしょう。
年を跨ごうとするその時、どこからともなく鐘の音が聞こえてきます。
この鐘はいったいどのようなものなのか知っていますか。
本日は「除夜の鐘」の歴史と意味を見ていきましょう。
ゴーンと響く鐘の音
『除夜の鐘(じょやのかね)』とは、12月31日から1月1日にかけての深夜0時を挟む時間帯に撞かれる鐘のことです。
「除夜」とは「除日の夜(じょじつのよる)」のことで、「除日」は「古い年を除いて新しい年を迎える日」なので、その年の最後の日です。
つまりは「大晦日の夜に鳴らす鐘」が除夜の鐘なのです。
また「鐘」は『梵鐘(ぼんしょう)』といわれるもので、主にお寺に設置されている吊り下げ式の大きな鐘です。
除夜の鐘の起源は、中国の宋(960年~1279年)の時代のこと。
当時発展した仏教の一宗派「禅宗(ぜんしゅう)」の寺院で行われていた「鬼払いの行事」に由来します。
鬼は北東方向にある「鬼門(きもん)」を出入りすると考えられ、そこから侵入してくる鬼を払うために鐘を撞くのです。
禅宗の儀式や規律をまとめた「勅修百丈清規(ちょくしゅひゃくじょうしんぎ)」には「慢十八声、緊十八声、三緊三慢共一百八声」と鐘の撞き方が書かれています。
「慢十八声」は弱く18回、「緊十八声」は強く18回、それぞれを3回ずつ行うと108回になります。
この行事は『百八の鐘(ひゃくはちのかね)』と呼ばれていますが、現在は略式として18回撞くことがほとんどだそうです。
日本で鐘を撞く習慣は鎌倉時代の頃に伝わってきましたが、当初は毎日朝と夕方の2回に108回鐘を撞いていました。
やがて室町時代の頃になると、現在と同じように大晦日から元旦にかけての除夜に行われるようになったのです。
108回撞く意味
さて、昔から除夜の鐘は『108回』撞かれていますが、これは何の数なのでしょうか。
諸説あるのですが、中でも一番有名で有力な説が「人間の煩悩の数」といわれています。
『煩悩(ぼんのう)』とは、仏教の用語で「体と心を乱して悩ませ、真理を見極めることを妨げる心の汚れ」のことです。
人間には煩悩が108種類あるといわれ、これを『百八煩悩(ひゃくはちぼんのう)』といいます。
除夜の鐘は百八煩悩を消滅させるために撞きます。
1回撞くことに1つの煩悩を消滅させていくのです。
百八煩悩の定義は複数ありますが、一般的なのは4世紀から5世紀頃にインドで仏教の論書『阿毘達磨倶舎論(あびだつまくしゃろん)』に記されたものです。
そこには、百八煩悩は『九十八随眠(きゅうじゅうはちずいめん)』と『十纏(じってん)』で構成されているとしています。
九十八随眠には『根本煩悩(こんぽんぼんのう)』と呼ばれる六つの煩悩が元にあります。
根本煩悩 | |
貪(とん) | 必要以上に求める欲 |
瞋(しん) | 好ましくない対象に対する嫌悪や怒り、憎しみ |
癡(ち) | 真理を知ることができない無知の心 |
慢(まん) | 自らを高く評価して思い上がること |
疑(ぎ) | 仏教の真理に対して疑ってかかること |
見(けん) | 誤った見解をもつこと |
煩悩になる「見」は「悪見(あっけん)」と呼ばれ、大きく五つに分けることができ、これを「五見(ごけん)」といいます。
五見 | |
有身見(うしんけん) | 命には自我があり、全てのものが自分に属していると誤解する見解 |
辺執見(へんしゅうけん) | 死後は無になる、または死後もあり続けるという、一方に極端に偏った見解 |
邪見(じゃけん) | 因果の理を否定する見解 |
見取見(けんじゅけん) | 誤った見解を正しいと思いこむ見解 |
戒禁取見(かいごんじゅけん) | 誤った教えで悟りが開けるとする見解 |
根本煩悩と五見を合わせて『十随眠(じゅうずいめん)』といいます。
十随眠を断ち切るためには、大きく分けて2つの方法があります。
一つは真理を誤認して生じる煩悩『見惑(けんなく)』を断ち切ることができる『見所断(けんしょだん)』です。
仏教には四つの基本的な真理を『四諦(したい)』といい、見所断は四諦を理解することによって断ち切ります。
四諦と見所断 | |
苦諦(くたい) | この世は一切が苦であるという真理 |
見苦所断(けんくしょだん) | |
集諦(じったい) | 苦の原因は煩悩であるという真理 |
見集所断(けんじゅしょだん) | |
滅諦(めったい) | 苦を滅することで悟りの境地に至るという真理 |
見滅所断(けんめつしょだん) | |
道諦(どうたい) | 悟りに至るには八正道が必要であるという真理 |
見道所断(けんどうしょだん) |
もう一つは生まれながらにして持っている煩悩『修惑(しゅわく)』を断ち切ることができる『修所断(しゅうしょだん)』。
これは十随眠のうち「貪・瞋・癡・慢」を断ち切る方法の一つです。
修所断は修業(瞑想)を実践することで断ち切れます。
以上の5つの方法で十随眠を断ち切ることができるのです。
また、十随眠は『三界(さんがい)』と呼ばれる、衆生(全ての生命)の生死が輪廻する三つの世界に存在します。
三界はそろぞれ理が違うので、十随眠の有無も変化します。
三界 | |
欲界(よっかい) | 欲望にとらわれた衆生が住む世界 |
色界(しきかい) | 欲望からは離れたが、物質や肉体的な制約がある衆生が住む世界 |
無色界(むしきかい) | 欲望も物質的制約も超越した精神的世界 |
煩悩の種類の「十随眠」とそれを断ち切る「見所断」と「修所断」、そして「三界」のどこに存在するかを組み合わせると、九十八随眠になります。
1 | 苦諦貪 | 執着する心 |
くたいとん | ||
2 | 苦諦瞋 | 許せない怒り |
くたいしん | ||
3 | 苦諦癡 | 道理が分からず愚痴を言う |
くたいち | ||
4 | 苦諦慢 | おごり、高ぶり |
くたいまん | ||
5 | 苦諦疑 | 正しい事を疑う |
くたいぎ | ||
6 | 苦諦有身見 | 身体への執着 |
くたいうしんけん | ||
7 | 苦諦辺執見 | 極端な思考 |
くたいへんしゅうけん | ||
8 | 苦諦邪見 | 因果応報を知らない |
くたいじゃけん | ||
9 | 苦諦見取見 | 間違いを正しいと思い込む |
くたいけんじゅけん | ||
10 | 苦諦戒禁取見 | 誤った考えを信じる |
くたいかいごんじゅけん |
11 | 集諦貪 | 欲望 |
じったいとん | ||
12 | 集諦瞋 | 憎しみ |
じったいしん | ||
13 | 集諦癡 | 悪行を行う |
じったいち | ||
14 | 集諦慢 | 他人に誇りたがる |
じったいまん | ||
15 | 集諦疑 | 真実を疑う |
じったいぎ | ||
16 | 集諦邪見 | 果報は無いと思う |
じったいじゃけん | ||
17 | 集諦見取見 | 自分が最も優れていると思う |
じったいけんじゅけん |
18 | 滅諦貪 | 激しい欲求 |
めったいとん | ||
19 | 滅諦瞋 | いら立ち |
めったいしん | ||
20 | 滅諦癡 | 無知による愚行 |
めったいち | ||
21 | 滅諦慢 | 傲慢 |
めったいまん | ||
22 | 滅諦疑 | 正しいことを信じられない |
めったいぎ | ||
23 | 滅諦邪見 | 因果関係を認めない |
めったいじゃけん | ||
24 | 滅諦見取見 | 誤った見解を信じ込む |
めったいけんじゅけん |
25 | 道諦貪 | 何かを求める心 |
どうたいとん | ||
26 | 道諦瞋 | 怒りで心が不安定になる |
どうたいしん | ||
27 | 道諦癡 | 愚かな行為 |
どうたいち | ||
28 | 道諦慢 | 自慢したがる |
どうたいまん | ||
29 | 道諦疑 | 真実を信じれない |
どうたいぎ | ||
30 | 道諦邪見 | 自分の行いに果報は無いとする心 |
どうたいじゃけん | ||
31 | 道諦見取見 | 間違った考えに執着する |
どうたいけんじゅけん | ||
32 | 道諦戒禁取見 | 誤った事を信じ込む |
どうたいかいごんじゅけん |
33 | 色界苦諦貪 | 魂からの欲望 |
しきかいくたいとん | ||
34 | 色界苦諦癡 | 愚かな行為 |
しきかいくたいち | ||
35 | 色界苦諦慢 | 自身の凄さを誇りたがる |
しきかいくたいまん | ||
36 | 色界苦諦疑 | 正しい教えを疑う |
しきかいくたいぎ | ||
37 | 色界苦諦有身見 | 身体への執着 |
しきかいくたいうしんけん | ||
38 | 色界苦諦辺執見 | 極端な考え方 |
しきかいくたいへんしゅうけん | ||
39 | 色界苦諦邪見 | 因果応報は無いとする |
しきかいくたいじゃけん | ||
40 | 色界苦諦見取見 | 自分だけが正しい |
しきかいくたいけんじゅけん | ||
41 | 色界苦諦戒禁取見 | 誤った事を正しい事と勘違いする |
しきかいくたいかいごんじゅけん |
42 | 色界集諦貪 | 必要以上に欲する |
しきかいじったいとん | ||
43 | 色界集諦癡 | 愚かな行い |
しきかいじったいち | ||
44 | 色界集諦慢 | 他者に誇りたがる |
しきかいじったいまん | ||
45 | 色界集諦疑 | 正しい事を信じられない |
しきかいじったいぎ | ||
46 | 色界集諦邪見 | 善悪の果報を認めない |
しきかいじったいじゃけん | ||
47 | 色界集諦見取見 | 自分が正しく他が間違っている |
しきかいじったいけんじゅけん |
48 | 色界滅諦貪 | 欲が湧いてくる |
しきかいめったいとん | ||
49 | 色界滅諦癡 | 愚行 |
しきかいめったいち | ||
50 | 色界滅諦慢 | 優越感 |
しきかいめったいまん | ||
51 | 色界滅諦疑 | 何も信じない |
しきかいめったいぎ | ||
52 | 色界滅諦邪見 | 因果応報を認めない |
しきかいめったいじゃけん | ||
53 | 色界滅諦見取見 | 誤った教えに執着する |
しきかいめったいけんじゅけん |
54 | 色界道諦貪 | 精神的な欲求 |
しきかいどうたいとん | ||
55 | 色界道諦癡 | 悪い考え |
しきかいどうたいち | ||
56 | 色界道諦慢 | 他人に自慢したがる |
しきかいどうたいまん | ||
57 | 色界道諦疑 | 真実を疑う |
しきかいどうたいぎ | ||
58 | 色界道諦邪見 | 善悪の果報は無いとする心 |
しきかいどうたいじゃけん | ||
59 | 色界道諦見取見 | 自分が正しく、他が間違っている |
しきかいどうたいけんじゅけん | ||
60 | 色界道諦戒禁取見 | 間違った教えに執着する |
しきかいどうたいかいごんじゅけん |
61 | 無色界苦諦貪 | 精神的な欲望 |
むしきかいくたいとん | ||
62 | 無色界苦諦癡 | 怒りからの憎しみ |
むしきかいくたいち | ||
63 | 無色界苦諦慢 | 自分が優れている事を知らしめたい |
むしきかいくたいまん | ||
64 | 無色界苦諦疑 | 正しい道を信じれない |
むしきかいくたいぎ | ||
65 | 無色界苦諦有身見 | 心身を思い通りにできると思う |
むしきかいくたいうしんけん | ||
66 | 無色界苦諦辺執見 | バランスを欠いた思考 |
むしきかいくたいへんしゅうけん | ||
67 | 無色界苦諦邪見 | 因果応報は無いとする |
むしきかいくたいじゃけん | ||
68 | 無色界苦諦見取見 | 誤った見解を正しいと思い込む |
むしきかいくたいけんじゅけん | ||
69 | 無色界苦諦戒禁取見 | 誤った見解に固執する |
むしきかいくたいかいごんじゅけん |
70 | 無色界集諦貪 | 魂からの激しい欲望 |
むしきかいじったいとん | ||
71 | 無色界集諦癡 | 愚かな行為 |
むしきかいじったいち | ||
72 | 無色界集諦慢 | 慢心 |
むしきかいじったいまん | ||
73 | 無色界集諦疑 | 真理を疑う |
むしきかいじったいぎ | ||
74 | 無色界集諦邪見 | 自分の行いが自分に返ってくることを信じない |
むしきかいじったいじゃけん | ||
75 | 無色界集諦見取見 | 自分が正しく、皆が間違っている |
むしきかいじったいけんじゅけん |
76 | 無色界滅諦貪 | 無意識に生まれる欲求 |
むしきかいめったいとん | ||
77 | 無色界滅諦癡 | 真理に対する無知 |
むしきかいめったいち | ||
78 | 無色界滅諦慢 | 己の凄さを誇りたがる |
むしきかいめったいまん | ||
79 | 無色界滅諦疑 | 正しい教えに疑問を持つ |
むしきかいめったいぎ | ||
80 | 無色界滅諦邪見 | 罪・公徳による果報を信じない |
むしきかいめったいじゃけん | ||
81 | 無色界滅諦見取見 | 間違いを正しいと信じ込む |
むしきかいめったいけんじゅけん |
82 | 無色界滅諦貪 | 欲求 |
むしきかいめったいとん | ||
83 | 無色界滅諦癡 | 悪行 |
むしきかいめったいち | ||
84 | 無色界滅諦慢 | 悪意 |
むしきかいめったいまん | ||
85 | 無色界滅諦疑 | 疑心 |
むしきかいめったいぎ | ||
86 | 無色界滅諦邪見 | 果報が自分に返ってくると知らない |
むしきかいめったいじゃけん | ||
87 | 無色界滅諦見取見 | 間違いに執着する |
むしきかいめったいけんじゅけん | ||
88 | 無色界滅諦見取見 | 妄信 |
むしきかいめったいけんじゅけん |
89 | 修惑欲界貪 | 生来持っている欲求 |
しゅわくよくかいとん | ||
90 | 修惑欲界瞋 | 生来持っている怒り |
しゅわくよくかいしん | ||
91 | 修惑欲界癡 | 生来持っている悪行 |
しゅわくよくかいち | ||
92 | 修惑欲界慢 | 生来持っている慢心 |
しゅわくよくかいまん |
93 | 修惑色界貪 | 制御しがたい欲望 |
しゅわくしきかいとん | ||
94 | 修惑色界癡 | 制御しがたい愚行 |
しゅわくしきかいち | ||
95 | 修惑色界慢 | 制御しがたい慢心 |
しゅわくしきかいまん |
96 | 修惑無色界貪 | 抑えられない欲 |
しゅわくむしきかいとん | ||
97 | 修惑無色界癡 | 抑えられない悪行 |
しゅわくむしきかいち | ||
98 | 修惑無色界慢 | 抑えられない慢心 |
しゅわくむしきかいまん |
「十纏」とは「人の中にある悪い心」のこと。
九十八随眠の元になる根本煩悩が起きた時に付随して発生するので『随煩悩(ずいぼんのう)』ともいわれています。
随煩悩も数十種類ありますが、その中でも特に重い十種類が十纏なのです。
十纏 | ||
99 | 無慚(むざん) | 恥じらいがなく、自分自身に対して犯した罪を罪として恥じない心 |
100 | 無愧(むぎ) | 破廉恥なこと。他人に対して全く恥じない心 |
101 | 嫉(しつ) | 嫉みや嫉妬の心 |
102 | 慳(けん) | 物惜しみをする心 |
103 | 掉挙(じょうこ) | 心が昂って静まらない心 |
104 | 惛沈(こんじん) | 心が深く沈んで塞ぎ込む心 |
105 | 悔(け) | 悪作。過去の悪い行いに対して後悔する心 |
106 | 眠(みん) | 睡眠。鈍重で自由がなくなり、暗くなった心 |
107 | 忿(ふん) | 自分の気に入らないことに対して、相手を殴ろうとするほどの怒りの心 |
108 | 覆(ふく) | 自分の過ちを隠そうとする心 |
これで合計108つの煩悩になります。
もう一つ有名な百八煩悩があります。
人間には『六根(ろっこん)』と呼ばれる器官を持っているとされています。
六根を通して外部から刺激を受けるとされ、これを『六境(ろっきょう)』といいます。
六根 | 能力 | 六境 |
眼(げん) | 視覚 | 色(しき):色彩と形 |
耳(に) | 聴覚 | 声(しょう):音 |
鼻(び) | 嗅覚 | 香(こう):香り |
舌(ぜつ) | 味覚 | 味(み):味わい |
身(しん) | 触覚 | 触(そく):堅さ、熱さ、重さなど |
意(い) | 知覚 | 法(ほう):概念を含むすべての存在 |
六根で感じたものには「好(こう)=気持ちが好い」「悪(あく)=気持ちが悪い」「平(へい)=どちらでもない」という3種類の感情がそれぞれ働くので、全部で18種類になります。
更にこれらの感情は、それぞれ「浄(じょう)=綺麗」「染(せん)=汚い」に分けられるため、合わせて36種類の煩悩になります。
これに時間の概念が追加され「過去」「現在」「未来」にそれぞれ現れるとされるので、合計して108種類と考えられます。
毎年どこからともなく聞こえてくる鐘の音。
それは、新しい年に向けて晴れやかな気持ちで迎えるための大切な儀式なのです。
1年を振り返ると楽しいことだけでなく、反省しないといけないことなど色々あるものです。
除夜の鐘の音を聞きながら自らを振り返り、来年に活かせるようにしていきたいですね。
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