季節の変わり目を元気に乗り越える。夏だけじゃない土用と食養生。
日本の季節は一年を通して移り変わっていきます。
ずっと日本に住んでいても、毎年の気温の上がり下がりに身体が慣れているわけではありません。
そんな季節の変わり目に体調を崩さないように、食事で精を付ける習慣が見られます。
有名なもので夏の「土用の丑の日」がありますが、実は他にもあるのをご存じでしょうか。
今回は一年に何度か訪れる「土用」について、取り上げていきます。
そもそも土用っていつのこと?
夏頃に訪れる「土用の丑の日」は、今や恒例行事といっても過言ではないくらい広く知られた習慣です。
しかし、この「土用」とは何のことを指すのでしょうか。
『土用(どよう)』とは「日本の暦における雑節の一つ」のことです。
日本の暦では一年の二十四に区切った『二十四節気(にじゅうしせっき)』や伝統的な年中行事を行う季節の節目『五節句(ごせっく)』など、暦を定めるための方法があります。

それとは別に、もっと季節の移り変わりを的確に掴むために設けられた日が『雑節(ざっせつ)』なのです。

雑節には、中国から伝わってきた「五行思想」と「陰陽思想」が結合した『陰陽五行思想(いんようごぎょうしそう)』に由来するものがあり、土用はその一つです。
土用の「土」は『五行思想(ごぎょうしそう)』に基づきます。
五行思想とは、古代中国に生まれた「宇宙の万物は木・火・土・金・水の五つの元素(五行)からなる」と考える自然哲学の思想です。

この思想では色や方角、人間の器官などあらゆるものが、五行に割り当てられています。
五行に季節を割り当てると春が「木」、夏は「火」、秋は「金」、冬は「水」の気がそれぞれ盛んになりますが、土が余ってしまいます。
そこで、土はそれぞれの季節の変わり目に割り当てられ、「土の気が盛んになる期間」のことを『土旺用事(どおうようじ)』と呼び、略して「土用」と呼ばれるようになったのです。
つまり本来の土用は、全ての季節の変わり目のことを指します。

暦上の四季の始まりは『四立(しりゅう)』の「立春(りっしゅん)」「立夏(りっか)」「立秋(りっしゅう)」「立冬(りっとう)」ですが、土用はそれぞれの「直前までの約18日間」にあたります。
それぞれの土用の正式名称は、立春の前は『冬土用(ふゆどよう)』、立夏の前は『春土用(はるどよう)』、立秋の前は『夏土用(なつどよう)』、立冬の前は『秋土用(あきどよう)』になります。
私たちが呼ぶ「土用の丑の日」は『夏土用の丑の日』を指すのです。

もう一つの重要な干支について
「夏土用の丑の日」には「丑」という干支が含まれていますね。
この干支はどこからきたのでしょうか。
そもそも『干支(えと)』とは、暦を表すための言葉で、正式には『干支(かんし)』と読みます。
干支と聞くと「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の『十二支(じゅうにし)』を思い浮かべる人がほとんどです。

しかし、本来は『十干(じっかん)』と呼ばれる要素と組み合わせたものを「干支」と言います。
十干は古代中国の暦において「太陽は10個存在しており、それが毎日交代して10日で一巡する」という考え方から生まれ、その10個の太陽につけられた名前に由来します。
十干も五行思想の元素に2つずつ当てはめられ、その後『陰陽思想(いんようしそう)』とも紐づきます。
陰陽思想は「宇宙のありとあらゆる事象は「陰(いん)」と「陽(よう)」という対立する二つに分類することができる」という考え方です。
五行が持つ陰と陽の組み合わせによって、十干は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」と名前が付きます。

さて話を戻すと、「夏土用の丑の日」の「丑」は、十干と十二支を組み合わせた「干支」を日に当てはめた『日の干支(ひのかんし)』に基づくものです。
干支は十干と十二支を順に並べたものを組み合わせて作られ、最小公倍数の60を周期とした無限に続く数詞です。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| きのえね | きのとうし | ひのえとら | ひのとう | つちのえたつ |
| 甲子 | 乙丑 | 丙寅 | 丁卯 | 戊辰 |
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
| つちのとみ | かのえうま | かのとひつじ | みずのえさる | みずのととり |
| 己巳 | 庚午 | 辛未 | 壬申 | 癸酉 |
| 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| きのえいぬ | きのとい | ひのえね | ひのとうし | つちのえとら |
| 甲戌 | 乙亥 | 丙子 | 丁丑 | 戊寅 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
| つちのとう | かのえたつ | かのとみ | みずのえうま | みずのとひつじ |
| 己卯 | 庚辰 | 辛巳 | 壬午 | 癸未 |
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
| きのえさる | きのととり | ひのえいぬ | ひのとい | つちのえね |
| 甲申 | 乙酉 | 丙戌 | 丁亥 | 戊子 |
| 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
| つちのとうし | かのえとら | かのとう | みずのえたつ | みずのとみ |
| 己丑 | 庚寅 | 辛卯 | 壬辰 | 癸巳 |
| 31 | 32 | 33 | 34 | 35 |
| きのえうま | きのとひつじ | ひのえさる | ひのととり | つちのえいぬ |
| 甲午 | 乙未 | 丙申 | 丁酉 | 戊戌 |
| 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |
| つちのとい | かのえね | かのとうし | みずのえとら | みずのとう |
| 己亥 | 庚子 | 辛丑 | 壬寅 | 癸卯 |
| 41 | 42 | 43 | 44 | 45 |
| きのえたつ | きのとみ | ひのえうま | ひのとひつじ | つちのえさる |
| 甲辰 | 乙巳 | 丙午 | 丁未 | 戊申 |
| 46 | 47 | 48 | 49 | 50 |
| つちのととり | かのえいぬ | かのとい | みずのえね | みずのとうし |
| 己酉 | 庚戌 | 辛亥 | 壬子 | 癸丑 |
| 51 | 52 | 53 | 54 | 55 |
| きのえとら | きのとう | ひのえたつ | ひのとみ | つちのえうま |
| 甲寅 | 乙卯 | 丙辰 | 丁巳 | 戊午 |
| 56 | 57 | 58 | 59 | 60 |
| つちのとひつじ | かのえさる | かのととり | みずのえいぬ | みずのとい |
| 己未 | 庚申 | 辛酉 | 壬戌 | 癸亥 |
干支が考案された古代中国では、紀元前16世紀頃の殷(いん)の時代から干支を用いて日付を記録しており、これを『干支紀日法(かんしきじつほう)』といいます。
日の干支は公式で求めることができ、算出結果の「乙丑・丁丑・己丑・辛丑・癸丑」のいずれかの「丑の日」になります。
なぜ「丑」なのか
ここまでで「土用」は年に4回ある雑節であることと、「丑の日」は日の干支で算出された日付であることは分かりました。
では、なぜ「夏土用の丑の日」と決まっているのでしょうか。
前述した干支の十二支は、古代中国の天文学で年の記録を行うために使われた『十二辰(じゅうにしん)』から派生したものです。
最も尊い惑星と考えられていた「木星」は約12年で地球を一周するため、天球を天の赤道帯に沿って東から西に12等分したものを基準とし、十二支が名付けられました。

12は1年の月数と同じなため、月を表す言葉としても使用されています。
では「夏土用の丑の日」を紐解くために、十二支・月・四季・二十四節気・色、そして土用を陰陽五行思想に当てはめて関係図にしてみます。

ここで重要になるのが、五行思想には「元素は互いに生み出したり、打ち消しあうなどの影響を与え合う」という考え方があることです。
その中に『相剋(そうこく)』と呼ばれる「相手の力を抑制し、弱める影響を与える関係」があります。
五行思想の相剋は、自分の右隣りを挟んだ向かいの元素にあたります。

十二支においても相剋のような関係があり、その作用は「対角線上にある力を弱める」ことにあります。
そして、先程の関係図で夏土用の対角線上を見ると、丑の月があるのが分かります。
つまり、土用の日付は「自身の対局の日の干支」になるのです。

さらには「力を抑えるために対局の干支の力を借りる」という考えに発展します。
丑の頭文字に因んで『う』の付くものや対局の季節の色に因んで『黒いもの』を食べると良いとされたのです。
このように土用の特定の日に特定のものを食べる『食養生(くいようじょう)』を行うことによって、健康を保とうとする慣習が根付いたのです。

もちろん、他の土用にも食い養生があります。
夏以外にも健康を意識して、食べてみるのもいいですね。

季節はある日を境に急に変化するものではなく、徐々に移り変わっていくもの。
それでも人は、環境の変化に馴染めず体調を崩してしまうこともあります。
土用はそんな季節の経過の期間であり、私たちが次の季節に馴染んでいくための大切な時期といえます。
昔の風習に肖って、新しい季節を乗り越えていきたいですね。
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